すでに工事から1年が経過しましたが、ようやくブログ上でご報告きるようになりました。
(以下、五十人平奥多摩小屋工事レポートより転記)
五十人平野営場は、雲取山と七ツ石山間の稜線上にある登山者に人気の野営地ですが
奥多摩小屋は老朽化のため取り壊され、ヘリポート敷地内や保護樹林内へのはみ出し侵入、
シカの食害による植生の変化など、多くの問題を抱えていました。
本工事は、奥多摩小屋の再建を中心として、バイオトイレの設置、シカ害対策、
テントサイトの再整備と水源林保護などの課題を解決するために計画されました。
基本計画では、ハイシーズンのテント宿泊客数から、トイレ利用客の汚水処理量を
想定する調査が行われました。
またシカ害対策としてはシカ柵の設置、ヘリポートエリアとテントエリアの
ゾーニング分けが計画されました。
1)高地での施工計画について
これらの計画の実施段階において、最大の問題は標高1700m付近である
現場の工事方法です。輸送は主にヘリコプターに頼るしかありません。
工事期間は雪の影響を受けずにヘリが安定して飛べる季節の、5〜9月の間に
全ての工事を完了させなければなりません。
ヘリによる輸送、長期にわたる山中での宿泊滞在、高地での施工など
事前の予測が難しい山岳工事となりました。
2)バイオトイレについて
バイオトイレは、敷地に十分なスペースがないため、浄化槽の不要な
そば殻を使用したユニットトイレが採用されました。
ユニットといっても、そのまま設置すれば良いものではなく
コンクリートを使用しない基礎工事と、自然公園内のため景観に配慮した
勾配屋根にしなければならないため、弊社の螺杭基礎と金属屋根を
組み合わせる計画としました。
3)電力計画について
このバイオトイレを稼働させるためには、それなりの電力が必要とされます。
(主にそば殻で細菌を培養するための、保温電力)
必要な電力は管理・休憩舎棟の屋根を利用したソーラー発電とし、
蓄電用のバッテリーは東北大と共同開発したキャリー型の
国産マンガンリチウム電池が採用されました。
このマンガンリチウム電池は、災害地などの復旧電力対策として開発された経緯があり、
ハンドルを引き出すと個別に運搬できるバッテリーで、一般リチウム電池と比較して
発熱がほとんどなく、冬季は低温時も充電量を制限することなく充電することが可能です。
(太陽光高効率充電時)
夏季はバッテリーが熱くならないことから安全で、その他の各装置への負担の削減にもなります。
バッテリーは容易に取り外しが可能なため、メンテナンス性に優れており
増設、交換及び搬入後の現場での施工性が容易、かつ
分割性能により運搬時の装置本体、各機器の軽量化を実現しています。
(搬入、設置、接続にて要した時間は通常機器の1/2に削減、
現場での工事用工具は通常機器工事の2/3に削減)
バッテリー単体重量は7.6kgと軽量のため人力による運搬が可能で
(ユニット単体のバッテリー総重量30.4kgの分割運搬を実現)
例えば蓄電したバッテリーを電力が必要な場所まで人力で運搬することが可能なので、
小型風力発電や小型水力発電などの小電力発電と相性がいいという利点もあります。
電池のリユースも安全に処理できる点も先進的で、今後の展開に想像力をかき立てられるシステムです。
オフグリット電力の場合、インバーターの消費電力も馬鹿にできないため
半導体を使ったオリジナルのパーツを開発しています。
また、天候不良などにより太陽光パネルの発電が追いつかない場合に備えて、
灯油による自家発電装置も設置しました。(基礎は螺杭式)
自家発電装置は、蓄電量に連動して自動で稼働し、電力モニタリングの
状況は遠隔にて操作可能になっています。
4)雨水利用について
屋根の雨樋から回収した雨水は200Lの雨水タンク2箇所に貯水し、
雑用水として利用します。この雨水タンクは増設が可能です。
冬季は水が流れていないとタンクが凍結するので、今後の運用状況を
みながら活用方法を検討していくことになります。
5)管理・休憩舎棟の建築について
前述のとおり山岳高地という悪条件に加え限られた工事期間での施工と
なるため、一般的なコンクリート基礎は現実的ではありませんでした。
そこで鋼製杭(螺杭)による旧4号建築物への応用(建築技術審査証明 取得技術)
と国産材CLT床板の組み合わせにより、短期間での基礎から建築建て方を実現しました。
基礎・下地施工は2日、建て方も2日程度、1日の作業可能時間は平均6時間
(天候の影響や現場までの移動もある)といった感じでした。
運よく天候にも恵まれ、ヘリ運搬によるCLT床板の敷設も完璧な作業となりました。
ヘリ運搬の段取りから梱包運搬の技術にも多くの経験が得られました。
ちなみに、構造床板はCLTとしましたが、建築の工法は在来木造軸組造です。
日本の伝統的な木構造ですが、プレカットされた部材を現場で組み上げる工法が、
山岳高地でも運搬や工期の面で多くの利点があることが実証されました。
6)外構計画について
シカによる食害を防止するため、キャンプ場全体をシカ柵で囲いました。
近年問題となっているクマの侵入からもキャンプ地を守ります。
出入り口には、弊社の設計施工による螺杭を用いたグレーチングデッキ
と門扉を採用いただきました。
以上のように、高地であるがため、必然的にオフグリットシステム
が実現することになりました。
まだひと冬を超えただけなので、今後も運用しながらモニタリングと
改良を続けていくことになりそうです。
(長文ご拝読ありがとうございます。)
<物件データ>
【所在地】:東京都 西多摩郡 奥多摩町 日原地内
【主要用途】:管理棟・休憩舎
【発注者】:東京都環境局
【基本設計・実施設計1】:(株)総合設計研究所 http://www.so-go.co.jp/
【実施設計2】:(株)サイアス一級建築士事務所 https://saias.jp/research/
【構造解析】:(株)構建設計研究所 http://www.kkse1966.co.jp/
【元請会社】:(株)東山園 https://tozanen.jp/
【大工工事】:(株)匠工房 https://www.kensetumap.com/company/125002/
【衛生設備】:大央電設(株)https://daiobio.co.jp/
【電気設備】:(株)勝電技研 https://shoden-giken.com/
【国産材CLT】:三菱地所ウッドビルド(株)https://www.mjwb.co.jp/
【多摩産材】:東京都森林組合 https://tokyo-sinrin.com/
【設計期間】:2021年7月~2022年3月(基本設計)
2022年7月~2023年2月(実施設計1), 2023年6月~2023年8月(実施設計2)
【施工期間】:2024年5月~2024年10月(電気工事除く)















